デザイナーと臨むリノベーションの新領域「工(たくみ)」
2018.9.12
デザイナーと臨むリノベーションの新領域「工(たくみ)」

服やバッグといった身につけるものと同様に、住まいにもこだわりを持つ人が増えています。MUSUBUのニュープロジェクト「工(たくみ)」は、「個性を主張できる販売物件がもっとあれば」という想いによって生まれました。今回、MUSUBU代表・石野智之と、デザイナー・西脇佑が対談。設立背景や想いを語ってもらいました。

対談:MUSUBU代表・石野智之 × デザイナー・西脇佑



時代は個性のある物件を求めている

_どのようなきっかけでプロジェクトが始まったのでしょう。出会いは?

西脇 石野さんとの出会いは、同じジムに通っていたことなんです。思っていたより年も近かったし、業種も似ていたから、互いの仕事について色々と話すようになりました。感じているのは、興味が強くて、チャレンジ精神が旺盛というところ。ご自分の好きなことや興味のあることには、とことん突き詰める方だな、という印象があります。

石野 最初は物件のインテリアコーディネートを依頼したよね。

キャプション 左:デザイナー・西脇佑 右:MUSUBU代表 石野智之

西脇 そうですね。東陽町の物件でした。私の肩書きこそインテリアデザイナーですが、飲食店、アパレルショップなどの店舗設計やオフィス設計、プロダクトデザインまで幅広く行なっているんです。実は、MUSUBUでリノベーションに携わるようになったころから、設計の依頼が増えたんですよ。

_インテリアの依頼から空間デザインに発展していったと。

石野 いま、住まいの方向は二つだと思っています。一つは個性を作る、もう一つは個性を作らない。そんな中、好きなものがはっきりある人は、一から自宅を作ってしまうんです。分譲マンションはどうしても、レイアウトがある程度きまってしまうし、商材も似たものから選ぶことになるので。

西脇 時代の変化とともに、インテリア雑誌に載っているようなリノベーション空間を求める方が増えてきましたよね。個性的な物件もラインナップに取り入れたいという相談を石野さんから受けて、このプロジェクトが始まりました。

石野 MUSUBUには、ベーシックなプランである豊(ゆたか)があります。豊はど真ん中でシンプルな空間。そこに好きな家具を持ち込んで、豊かな生活を送ってもらおうというコンセプト。一方で工は、お客様に伝わりやすいコンセプトで、デザイナーの内装を楽しんでもらおうと。

西脇 賃貸目的の個性的な物件は増えてきたと思うのですが、販売を目的とした空間でここまでカジュアルに振った空間はなかなかないのかな、と思いますね。



職人の手がはいった、素材感のある空間

_「工」という名前にはどのような気持ちが込められているのでしょうか。

西脇 素材感を大事にしたこだわりの空間、職人さんの手がはいっていることからイメージして「たくみ」と名付けました。社名や他のブランドも、結=むすぶ、豊=ゆたかといった風に、全て和名で一文字だったので、漢字は「工業」の「工」をとりいれて。

石野 シンプルでキャッチーなものが好きだから、すごくいいなって思った。工を始めるにあたって、意識したことはある?

西脇 具体的なところでいくと、パーツですね。店舗設計の場合は基本オリジナルだけど、住居の場合はメーカーのものから選定する。まずは、どのメーカにどんなパーツやツールがあるのか、インプットしていくことから始めました。デザイン面でいうと、時代性を上手く取り入れること、そして出来るかぎり素材感を大事にすること。インダストリアル(工業デザイン)というテーマを掲げつつも、それだけに縛られないよう、幅広い意味合いで感じてもらいたいと考えています。これは2人で話しながら考えた方向性でもあります。

石野 うん。ここに暮らす人ってきっと、衣食住どれも楽しみたいという人。ファッショナブルな空間を作りこんでいるので、そこに共感できる人に住んでもらいたいかな。

西脇 そうですね。流行に敏感で、ライフスタイルを充実させたいと考えている方に刺さることを目指しています。



コーヒースタンドのような部屋

_第一弾のお部屋について簡単に教えてください。

西脇 チョークアートなど、分かりやすい流行りのテイストを取り入れた、コーヒースタンドのような空間がコンセプトです。大きい出窓があったので、そこをベンチシートにして座ることができたり、キッチンの腰壁をモルタルにするなどの演出をしています。週末に友人を呼んでホームパーティーなどを楽しむ、カップルや若い夫婦をイメージして設計しました。





ベッドルームも来客に活用する

_第二弾は門前仲町のマンションでした。こんな部屋にしたいというイメージは最初からあったのでしょうか。

西脇 門前仲町や清澄白河あたりは、美術館やカフェといった話題のスポットもあり、近年女性に人気のエリアなんです。そこで、「料理好きな女性が楽しめる空間」をコンセプトにしました。どちらかというと、男性はオープンキッチンが好きだという人が多い。対して女性の場合は、「隔離された空間のほうが、料理に集中できる」という声もあがるんです。そこで、プレイベート空間になるようにキッチンをデザインしました。


石野 そこまで広くない空間だったので、広さを感じられるようなアイディアを色々と議論したよね。で、ベッドルームを半オープンにすることに。

西脇 かなり大胆なアイディアだったので、購入者が限定されないか?という心配もありました。実際には見せたくないところを見せる状況にはなりますが、逆にライフスタイルを提示したい方や、趣味の部屋を作り込みたい人にとっては、思う存分に表現できる空間。楽しい部屋作りができるのではないかと考えています。そして、こういうところに住む人って、友達を呼んでお酒を飲んだりすることも多いのかなと思うんです。オープンになった寝室とリビングの間がベンチのようになっているので、椅子代わりに使えたり。最大限に部屋を活用できる工夫を凝らしています。

石野 尖ったのができたな、というのが第一印象。でも、すごくかっこよくて、これは売れるなって感じましたよ。ワンルーム、スタジオタイプにベッドを区切ったというような感じ。空気感がよくて、妙に居心地がいいんです。



ストーリーのある物件づくり

石野 今後はどんな空間をつくっていきたい?

西脇 先日、北欧に行ってきたんです。街でリサーチもしてきたのですが、私たちが頭に思い浮かべる、いわゆる北欧らしい温かみのあるデザインだけでなく、少しエッジを効かせた空間作りが主流になっていました。北欧のライフスタイルって、日本とどこか似ていて親和性が高いように思うんです。だから、あたたかさにエッジの効いたテイストで空間を作りたいなと考えています。あと、個人的に食事を作ることが好きなので、どの物件でもキッチンにはこだわりたいです。

石野 一棟リノベ、戸建とか、可能性は色々あるよね。コンセプトありきで物件を探すのも面白いかもしれない。物件のままスケルトンで販売して、内装は「工」がいいんですけどというリクエストがあれば、相談しながらデザインを決めていくということもできる。買った人が自分でDIYするとか、誰に頼めばいいのか、というところまで提案するとか……。そうするとストーリーが生まれて、そのぶん物件に愛着もわくと思うんです。ストーリーのある部屋をつくりたいよね。第三弾、第四弾と続く予定なので、これからの工に期待してもらえたら嬉しいです。

西脇佑
デザイナー。店舗、オフィス、住宅などの空間デザインを行う傍ら、家具、雑貨、アクセサリーなどプロダクトのデザイン、企画プロデュースを行うなど、多岐にわたるプロジェクトを行う「LINEs AND ANGLEs」を主宰している。

略歴
1981年 兵庫生まれ
2006年 九州大学大学院芸術工学府
設計事務所に在籍し様々なプロジェクトに参加
2012年 デザインユニット「LINEs AND ANGLEs」として活動を開始
2013年 自身の事務所「LINEs AND ANGLEs」を開設
2014年 「(株)LINEs AND ANGLEs」へ法人化
http://linesandangles.jp